研究会報告

病院ブランディング研究会は月に1度、全12回の予定で、定期的に研究会を開催しています。
毎回、座長の岩堀幸司氏の講演に加えて、メンバー企業による企業プレゼンテーションや病院の建築、施設設備、周辺技術に携わるその道のエキスパートの方をお招きしての講演を実施しています。

2010年レポート

2009年レポート


第12回

(2009年12月15日)

講師:新田禎昭(にった・よしあき)氏
  株式会社イトーキ マーケティング本部
  販売推進部 医療福祉施設推進チーム チームリーダー
テーマ:患者アメニティと経営改善の同時実現
・患者さんの新たな選択肢「準個室」
病院側の事情を推察すると、最新の医療機器導入等の優先課題がありすぎて、環境整備はついつい後回しになってしまう。その上、保険収益が上がらず厳しい経営状況に置かれている。そこで従来、差額室料設定がなかった多床室に「準個室ユニット」を導入し、そこを多床室ながら個室に居るような雰囲気を味わえる「準個室」として新たに設定することで、無料で運用してきた部屋から差額室料を得ることができ、収益の向上が見込める。患者さんにとっては低価格で個室環境を過ごせる部屋という選択肢を広げるメリットがあり、病院側は保険外収益の見直し、患者サービスの延長で収益化が図れる。

岩堀幸司氏
テーマ:病室を考える
米国の病院では少し前から「ユニバーサルペイシェントルーム」がトレンドになっている。ユニバーサルペイシェントルームとは患者さんを移動させることなく、室内の設備を変更することで、患者さんと家族が過ごす病室から、ときにはスタッフが集まり処置を行えるような病室に変わることができる「多機能病室」。病室をつくり込まず患者さんや病院の事情に応じて設備をフレキシブルに変更できるという発想が、今後は重要になってくる。


第11回

(2009年11月20日)

講師:伊藤俊治(いとう・しゅんじ)氏
  株式会社山武
  ビルシステムカンパニー環境ソリューション本部
  環境マネジメント推進部
  カーボンマネジメントグループ在籍
  エネルギー管理士
テーマ:改正省エネ法について ―事業者に求められる対応―
・事業所単位から事業者単位へ
これまで、エネルギー使用量が原油換算で1,500kl/年以上の事業所・工場に対してのみ、エネルギー管理の導入が求められてきたが、2010年4月より施工される「改正省エネ法」では、事業者単位で全体のエネルギー使用状況を把握して、エネルギー管理をする必要が出てきた。病院も例外ではなく、病床数500~600程度の規模の病院も同法に対応しなければならない。


第10回

(2009年10月16日)

講師:鳥嶋吉浩(とりしま・よしひろ)氏
  株式会社タジマ 営業本部 営業企画室
テーマ:イージーメンテナンス床材について
・イージーメンテナンスとは
昨今、特に医療施設を中心にノーワックスメンテナンスの床材のニーズが高まってきている。イージーメンテナンス品は、上履きを使用する、あるいは歩行量が少ない部位ではノーワックスで、水拭きモップや掃除機による日常の手入れで美観を保つことができる。「ランニングコストの削減」「CO2の発生の抑制」などの観点から、福祉施設や文教施設での導入も進んでいる。

岩堀幸司氏
テーマ:①広州(中国)出張報告 ②スケルトン・インフィル・インフラ
・S.I.I (スケルトン・インフィル・インフラ)
ある調査で「病院建築の寿命は約30年で、大改修、建て替えが必要」という結果が出ている。躯体側はまだまだ使えるにも関わらず、老朽化した電気配管・配線、あるいは給水管、雑排水管などが壁に埋め込まれ、容易に更新できないためである。上下水道や道路と同じように、建築も都市を支えるインフラのひとつとして継続的に使用できるものであるべきだ。


第9回

(2009年9月18日)

講師:尾関伸彦(おぜき・のぶひこ)氏
  株式会社メディシン 企画室
テーマ:スーパー次亜水による感染対策
・安全性と強い殺菌力を両立した理想の消毒剤
スーパー次亜水は、古くから消毒剤として使用されてきた次亜塩素酸ナトリウムを水で希釈し、塩酸を混ぜ合わせてpH値を弱酸性に調整した水溶液である。従来の消毒剤は殺菌力の高さに比例して毒性も強かったが、スーパー次亜水は殺菌力の高さと安全性を兼ね備え、有人下の噴霧による空間の除菌やカット野菜の除菌洗浄等にも活用可能である。


第8回

(2009年8月21日)

講師:鈴木美和子(すずき・みわこ)氏
  パラマウントベッド株式会社
  事業戦略本部 企画部 課長
  社会福祉士
テーマ:ベッド周りの安全・安心を守るには ─パラマウントベッドからのご提案─
・転倒転落予防の良策は「患者本人への働きかけ」
医療事故の約3割を占める転倒・転落。さまざまな転倒転落対策が講じられているが、これらの対応が事故を減らすことにつながっておらず、現場は大変苦労している。転倒転落事故は、病院のスタッフが努力しただけで防げる訳ではない。これからは従来の対策に加えて、「患者本人への働きかけ」という視点が重要になってくる。

岩堀幸司氏
テーマ:病院建築 発注者の思いとニーズ・取り組み
・発注者の不審と期待
建築主は設計者に対して、「維持保全計画」「コストコントロール」「プロジェクトの予算計画」といった点で不満を抱えている。さらに施工者に対しての不満は、「コストが不透明」「発注者への業務負担が重い」「コストが高い」といったものが上位を占めている。設計者にしろ、施工者にしろ、担当者次第で建築主の不満を解消することは可能である。だが、昨今、コストコントロールができない設計者が多いことが憂慮される。


第7回

(2009年7月17日)

講師:宮原博(みやはら・ひろし)氏
  宮原博技術士事務所所長
テーマ:これからの病院IT-IPシステム
・病院にはITネットワークをコーディネートできる人材が必要
従来、病院ではITネットワークを構築するために業者に発注する際、ばらばらに発注していたため整合性が取れていなかった。ITネットワークのほとんどがシステムごと、ベンダーごとに混在し、その系統数は数十~数百以上にのぼる。統一されたひとつのコンセプトに基づいた「病院統合ITネットワーク」の構築が急務である。

岩堀幸司氏
講演:地震と病院家具
災害時、病院は特に2つの点を考慮する必要がある。まずひとつは、スタッフの安全の確保。それができていないと、その後の医療に影響が出る。それからもうひとつは、病院が現状を把握し、時間の経過と共に変化する自らの役割を認識することである。地震の発生直後、揺れが安定して避難する段階、患者さんを受け入れる段階など、それぞれ状況に応じて病院には適切な行動が求められている。


第6回

(2009年6月19日)

講師:小山繁(こやま・しげる)氏
  大成建設株式会社 医療福祉本部プロジェクト部長 愛媛県立中央病院担当
講師:岡本憲文(おかもと・のりふみ)氏
  大成建設株式会社 設計本部医療福祉担当 建築グループ プロジェクトリーダー
テーマ:愛媛県立中央病院のPFI
・病院PFIに欠かせないトータルマネジメント力
病院PFIの場合、建設には医療機器の導入も含まれている。また、施設の維持管理に加えて、給食、医療事務等の病院運営、薬剤・医材の調達、光熱費、ITの整備まで請け負うことになる。これらの調整のマネジメント力が試されている。


第5回

(2009年5月15日)

講師:伊藤 昭(いとう・あきら)氏
   株式会社日建設計 設備設計部門主管
   株式会社ビルディング・パフォーマンス・コンサルティング シニアコンサルタント
テーマ:院内感染予防
・感染の連鎖を断つ感染制御科学
感染制御科学では、近年、耐性菌のDNA解析をメインに生物学的研究を進め、その結果病原性微生物の動きや性質がかなり分かるようになり、感染発生の予防と拡大防止が可能になる。病院は「病原体」「宿主」「感染経路」の3要素が揃った、感染リスクの高い場所である。その感染の3要素を断つのが感染制御科学の役割である。

岩堀幸司氏
テーマ:
①感染防止に病院建築の果たす役割
・動線を分けて感染の拡大を防止
 新型インフルエンザに感染した患者を受け入れる設備が整っている病院はなかなかない。少し前まで感染症には隔離、あるいは独立した病棟で対応していた。その場合は、建物の離隔距離を置くことが主眼でスタッフの感染防止対策は不十分だったと言わざるを得なかった。原則、感染の疑いがある患者は病院のスタッフと動線を分ける必要がある。
②日本の病院PFIの今まで
・近江八幡市のPFI解約から学ぶ
 高知医療センター、近江八幡総合医療センターといった大規模病院でスタートしたPFI事業はあまりうまく行っていない。そんな中、2009年3月に近江八幡市は民間会社とのPFI契約を解約。病院規模に比べて当初から収入を多く、支出を小さく見込んでいたところに大きな誤りがあったのではないか。


第4回

(2009年4月17日)

講師:松田一(まつだ・はじめ)氏
   YKK AP株式会社 事業本部 開発営業統括部
   防災アドバイザー・防災士
   株式会社イー・カンパニー 代表取締役
テーマ:災害医療の現実
・災害時パニックになるのは医療従事者
 災害時は、1人の医師が突然1000人の患者を診なければならない事態が起こりうる。平時とは全く異なる状況に医療従事者は対応しきれず、パニックになる。企業は医療従事者の安全や健康を考慮して製品を開発したり、病院を建築・設計したりする必要があるのではないか。

岩堀幸司氏
テーマ:入院体験に基づく病院の課題
・多忙をきわめる医療スタッフ
 先般入院した際に、医師や看護師が本当に忙しいそうだった。そして、忙しいがゆえにお互いのコミュニケーションがあまり良くないと感じた。昨今、病院の「IT化」がしきりに叫ばれているが、コミュニケーションを改善するという目標を持ってIT化を進めているのか疑問に思う。


第3回

(2009年3月19日)

講師:西田正徳(にしだ・まさのり)氏
   西田正徳ランドスケープ・デザイン・アトリエ(N.L.D.A)主宰
   東京農業大学客員教授
テーマ:ランドスケープデザイン―食と風景、エディブルランドスケープ
・発展する緑化の技術と食べられる緑
 良質な人口軽量土や給水設備の発達により、薄い土厚での緑化が可能になった。また、ここ10年ほど米国、英国のランドスケープデザインの中で「食べられる緑」が流行りつつあり、日本にも徐々に導入されてきている。そんな中、病院には建物内、建物に付随するテラスや中庭といった活用できる空間があるにも関わらず、現状は手付かずのままである。


第2回

(2009年2月20日)

講師:牟田邦彦(むた・くにひこ)氏
   株式会社ケアコム 企画部長
テーマ:看護環境の改善―ICTシステムからのアプローチ―
・病院ICT化によるゆとりの創出を
 厳しい看護環境に加えて、医師や看護師が医療事故・訴訟に巻き込まれる危険性が高まってきている。そのような事情が離職者問題、看護師不足という状況を加速させているものと考えられる。ICTによって看護師の労働環境を改善するには、「把握」「通知」「記録」「フィードバック」という4つのステップに分けて問題を解決していかなければならない。

岩堀幸司氏
テーマ:医療・療養環境―緑、インテリア
・検証される緑の癒し効果と「テーマ」を決めた環境づくり
 屋上庭園に限らず、病院の中にも緑が導入されてきている。近年、免疫力を高めるなどの緑の癒し効果が科学的に検証されるようになってきた。また、単に「ものがある」「空間がある」ということではなく、「どういう空間にしたいか」をあらかじめ徹底的に議論し、その結果も検証していくべきである。


第1回

(2009年1月16日)

講師:小宮 清(こみや・きよし)氏
   聖マリアンナ医科大学 常任理事
テーマ:大学・病院の置かれているジレンマとブレークスルーについて
・医大・病院を取り巻く状況
 ここ10年で各種補助金が減少、寄付金も伸び悩み、医科大学、病院の収入は鈍化。DPCや7対1看護加算で一息ついたと思いきや未曾有の経済危機と長寿医療制度の導入で診察アクセスの抑制が予想される。医科系大学間の格差は、基本的に戦略・戦術面の成否によるものだが、その根底には人の意識や組織風土の問題が大きく存在する。

岩堀幸司氏
テーマ:病院経営を考慮した病院建設事業の考え方
・身の丈にあった投資を
 病院の収入と支出はある程度予測でき、組織の体力に見合った範囲での投資でなければならない。一方で、設計者・施工者が一生懸命になればなるほど、得てしてコスト高に陥りがちである。私の役割は、発注者の目的と予算に合わせた設計・施工内容に調整し、関係者全員に満足していただける施設を提供することである。


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