なぜ病院にブランディングは必要なのか

病院のブランディングの前に、企業のブランディング活動について簡単に整理します。マーケティングでは、企業が顧客に選ばれるための価値創出活動をブランディングといいます。ブランド・エクイティ研究の第一人者、ケビン・レーン・ケラーは著書「戦略的ブランド・マネジメント」の中で、「ブランディングは精神的な構造を創り出すこと、消費者が意思決定を単純化できるように、製品・サービスについての知識を整理すること」と定義しています。消費者は、企業の製品やサービス、情報発信を個々人のマインドで受け止め、それらをブランドとして差別化して価値を見出すのです。供給が需要を上回る買い手市場では、ブランディングは価格競争に巻き込まれないためにも大変重要です。

病院は営利企業ではありません。医療法では非営利原則が定められています。社会資本としての位置づけが強く、病院の配置は都道府県知事の許可と道府県の医療計画に基づきます。運営は株式会社ではなく、地方公共団体や独立行政法人、事務組合、日本赤十字社といった公的組織、医療法人(大学医学部の付属病院、社会福祉法人、宗教法人、協同組合など)を中心とした公益法人です。

一方で、病院を取り巻く経営状況は大変厳しくなっています。原因は少子高齢化や低迷する経済状況、医療技術の進歩などにくわえ、出来高払いから包括払い、老齢に伴う疾病構造の変化、顧客意識の変化などがありますが、岩堀幸司氏は、国の医療費削減政策が主な原因と指摘しています。特に、75歳以上の高齢者が90日を超えて多く入院する一般病院の経営が苦しくなっており、脳外科病院など専門病院の間でさえ、市場の奪い合いが激化しています。実際、公立病院の8割弱が赤字に陥っており、不採算部門の整理や病院の再編成が急ピッチで進んでいるのです。

病院は、生き残りをかけて新たな顧客を獲得するか病床数を縮小するかの選択に迫られているのです。顧客ニーズに経営を合わせるマーケティングを導入するなど、企業マインドを身に付けなければなりません。ただし、社会資本としての役割上、弱肉強食の世界に身を置くのではなく、役割分担をしながら地域の医療機能を担わねばなりません。中核病院を中心に、かかりつけ医や専門病院、高度医療を行う大学病院等が連携するシステムの中で存在感を発揮することです。この意味で、病院のブランディングには、地域性が不可欠です。さらに言えば、病院ブランディングを地域ブランディングに発展させることも可能です。病院連携の中で健康、医療、福祉のニーズを充足することで、産業や雇用といった地域経済の発展を望めるからです。

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